大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和43年(ラ)268号 決定

理由

第一、相手方朴得善に対する抗告について。

競売法による不動産競売手続において、競買代金を完納した競落人は競売法三二条二項によつて準用される民事訴訟法六八七条により直接自己に対し競落不動産の引渡を求めることができるのであるが、この場合、引渡命令を発することのできる相手方としては、競売開始決定当時の抵当不動産の所有者およびその一般承継人のほか、競売開始決定による差押の効力発生後に、これらの者から競売不動産の占有を特定承継した第三者に限ると解するのが相当である。けだし、このような第三者はその占有権原を競落人に対抗することができず、競落人に対して引渡義務を負うものであることが、競売裁判所における競売記録を中心とする簡易迅速な調査によつて、比較的容易に判断することができるのであるから、かかる第三者に対して引渡命令を発しても、その第三者の権利を不当に害することがなく、従つて、法が競売の機能と信用を維持し、競売の目的を全うさせんがため、簡易迅速な特別の手続として引渡命令の制度を設けた法意に合致するものと考えられるからである。

記録に編綴してある疏乙第三号証(所得税源泉徴収義務者変更届)、原審における相手方朴得善に対する審尋の結果、ならびに京都地方裁判所昭和四〇年(ケ)第二五号不動産競売事件記録によれば、相手方朴得善は競売開始決定による差押の効力発生前の昭和四〇年三月一日本件建物を京染蒸工場として使用していた申立外伊藤一栄よりその営業権の譲渡を受けるとともに、相手方金光朝より本件土地建物の占有使用の許諾を受け、爾来本件土地建物を占有していることが認められる。してみれば、抗告人朴得善は差押の効力発生後の占有特定承継人といえないから、これに対し引渡命令を発することはできないものといわなければならない。

第二、相手方金光朝、同朴俊生に対する抗告について。

当裁判所もまた原審と同様、相手方金光朝同朴俊生に対する本件引渡命令の申立は失当であると認めるものであつて、その理由は、次のとおり付加するほか、原決定の理由説示(原決定三枚目表二行目から八行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

抗告人は、相手方金光朝が現在本件物件に居住していないとしても、そのこと自体から当然に同人の本件物件に対する占有がないとはいえない筈であり、同人が本件物件を引渡すべき義務を負担すること、不動産の売買契約において売主が目的物件に居住していなくても、買主に対してなお、これを現実に引渡すべき義務あることに照し明白であると主張するけれども、ここにいう占有とは、民法上の占有とは異なり、専ら目的物件に対する外観的な直接支配の状態を指すのであつて、前認定のごとき事実関係においては、右相手方両名が本件土地建物を占有しているとはいえず、抗告人の主張は到底採用しがたい。

右の次第で、抗告人の本件引渡命令の申立を棄却した原決定は相当で本件抗告は理由がない。よつてこれを棄却すべきものとし、抗告費用は抗告人に負担させることとして主文のとおり決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例